学会概要

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理事長挨拶

 このたび、2025年10月より日本自律神経学会第8代理事長を拝命いたしました山元敏正と申します。長い歴史と伝統を有する本学会の新たな一歩を担うにあたり、身の引き締まる思いでおります。

 本学会は1956年に「国際自律神経研究会日本支部会」として発足し、1973年に「日本自律神経学会」と名称を改めて以来、自律神経に関する臨床研究、基礎研究とその臨床応用、人材育成、社会啓発を柱として発展してまいりました。これまで、本学会の発展にご尽力くださった歴代理事長の先生方をはじめ、多くの会員の皆様に心より敬意を表します。

 自律神経は、血管、心臓、肺、消化管、膀胱、生殖器、眼、汗腺など、全身諸臓器の機能を統合的に制御する生命維持の要であり、その異常は多様な疾患の病態と深く関わります。そのため、本学会の領域は、脳神経内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、泌尿器科、産婦人科、眼科、東洋医学科などの臨床系に加え、生理学、解剖学、薬理学、免疫学、心理学など幅広い基礎医学領域にまたがっています。まさに「基礎と臨床の融合」によって自律機能の全体像を探究する学際的な学会といえます。

 従来、自律神経はストレスなどの外的環境に対し、生命を維持するために内臓諸臓器を調節することが主な役割と考えられてきました。しかし近年の研究では、心拍変動や痛みなどの内受容感覚(interoception)が、主として迷走神経を介して大脳辺縁系や島皮質へと伝えられる求心路の重要性が注目されています。すなわち、自律神経の求心性情報が情動や思考の基盤を形成していると考えられます。現時点では内受容感覚の客観的評価法は限られていますが、この分野の研究が進展することで、functional somatic syndromeのような機能性疾患の病態解明や新たな治療法の開発につながることが期待されます。

 本学会総会では、従来から基礎系と臨床系の研究者が互いに学び合う体制を重視してきました。近年はとくに「基礎と臨床の対話」と題し、両分野の研究者が同一テーマのシンポジウムに参加し、最新の知見を共有できるような企画を多数設けています。また、ホットトピックスを扱った、あるいは臨床・基礎双方の知識のブラッシュアップを目的とする教育講演も充実しています。さらに、本学会の機関誌に掲載された論文を対象とした日本自律神経雑誌論文賞や、応募論文の中から選出される日本自律神経学会賞など、顕彰制度による研究の活性化も進めております。

 今後の本学会の目指すところは、第一に、基礎系と臨床系のさらなる融合によって、自律神経研究の新たなイノベーションを推進すること。第二に、将来の自律神経研究を担う若手研究者の育成です。基礎・臨床を問わず多様な分野の専門家にご参加いただき、より幅広い企画を展開してまいります。また、自律神経学の理解を広めるために、2026年度より「日本自律神経学会認定士」制度を設けることにいたしました。この資格は、医師のみならず他職種の方々も対象とし、総会参加を通じて自律神経学を体系的に学んだ方を認定する制度です(詳細は順次、学会ホームページにてご案内いたします)。今後も、学会賞や論文賞による業績顕彰、若手研究者シンポジウムの開催を積極的に進めるとともに、国際自律神経科学学会(ISAN)との連携を一層強化し、世界に向けて日本発の研究成果を発信してまいります。

自律神経研究の進歩が、社会に生きる人々の健康と生活の質の向上に貢献できるよう、各医療機関・大学・企業との協働も推進していく所存です。

 今後とも、日本自律神経学会へのご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

日本自律神経学会理事長 山元敏正

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